scene 4 ― 17age
その少年は、高校の後輩だった。
ちょうど同じ誕生日に産まれた1年違いだった。私は高校のとき、図書委員のお飾り委員長をしていた。司書室に入り浸り、委員の仕事をしながら、結局はだべったり、お菓子を食べたりしていた。
終われば喫茶店まで自転車を漕ぎ、後輩たちと奥のボックスで、ミルク満タンの珈琲を飲みながら、アニメの脚本の話とか、サテンのノートに空想を書いたり、時に人生論をぶちかましたり、高校同士の対立の話、先輩の彼女が好きな切なさを慰めたりもした。後輩たちの吸う煙草を吹かして咽たりして、青春していた、というか。
彼はそんな私の後輩たちと友達ではあったが、そこまで不良ではなかった。サテンにつれて行く事も余りなかった。
どちらかと言うと、黒ぶちメガネで真面目で、ちゃんとした事の言える少年だった。
「いいなぁ、お気楽でさ」
彼は当時美大を目指していて、私が美術室の釜で芋を焼いていたりすると、チクリと羨んだ。私は彼に委員長を引き継ぐつもりだったし、彼なら、と言う信頼感があった。弟のような存在。そんな彼が、司書室で久しぶりに登校した卒業間近の私に言った。そばには誰もいなかった。
「もう1年一緒にいてよ、留年しない?」
「怖ッ、やめてよぉー、次の学校決まってんのに」
笑いながら彼を見たら、彼は泣いてた。目の前で泣く男子、という状況に私はとても驚いた。でも、その時、そんな純粋な彼が好きになった。私は、机にあった紙に、数字を書いた。
196○717
196△717
「たった1つなのに、こんなに寂しいね」
そう言った私を、彼は壁際に立たせて抱きしめた。その気持ちが嬉しかった。帰り際、階段の踊り場が鮮やかなオレンジに染まっていた。
「見たことないよ、こんな夕焼け。ほら、夕焼けの中にいるみたいだよ」
Kissは、ぎこちなくて、それだけ私を染めていった。彼のはじめてをもらったのは、私の部屋だった。
卒業式の日。彼は私の教室にやってきた。もうみんな帰った後だった。
「バッチ下さいよぉ」
遠くから手を上げた彼に、つけていた学年章を投げた。
「ナイスキャッチ」
「4月からつまんねぇなぁ〜」
結局新しい学校へ行きはじめて、自然と別れてしまったけれど、誕生日になると、元気だろうかと思いだす。