恋話

scene 3 ― 16age

 その青年は、雑誌の文通コーナーで知り合った。はじめ女の人かと思って出したら、大学生の男の人だった。何通かやり取りをして、暖かい人柄に私は惹かれて行った。高2の夏、私は住所を頼りにその人の家へ行ってみる事にした。

 ようやく、その路地の長屋にある彼のアパートを見つけた時には夕方だった。
 ノックする。顔も見たことがない彼に逢いに行くのだから、ドアが開くまでは、バクバク。現れた彼は、寸分違わずイメージ通りの人だった。

 当時彼には彼女がいた。
 私はたまに彼女は元気?などと聞いてみた。16歳のプレッシャーは遠慮がなかったかもしれない。別れた、と聞いたのはもう冬が近かった。

 その年の冬は早くて、11月には彼の部屋はもうコタツがあった。
 私は、ある日彼の部屋で、でっかいオキシドールを見つけた。
「何に使うの?」
「ん、多分もうすぐ使うと思うから」
 彼はウインクした。

 次の日届いた手紙。
――帰って風呂に入ろうと思ったら、真っ赤だったんだ……。ありがとう。大切にする。大好きだよ。――
 最初の人になった。帰り道、彼は駅の階段を登る私を“がに股気味だぞ”と笑って、戻ってからそのオキシドールでコタツ敷きを綺麗にしたそうだ。

 それから1年の月日が流れ、彼は故郷へ帰っていった。
 年に1度だけ、私は彼の故郷を訪ねるようになった。何度目かの春先に彼は東京にやってきて、私を抱き締めながら言った。
「待ってて。もっと待たせるかもしれないけど、遊んでていいから待ってて」
 私も、当時付き合ってる人が出来ても、結局彼に戻ってしまう日々を過ごしていた。漠然と、彼と一緒になるのかもしれないと思っていた。

 ある日、彼は東京に出向してくる事となった。
 もう私も社会人になっていた。懐かしい友人と会う感覚だった。何回か飲みに行って、私の誕生日にも逢う事になった。飲みながら彼は言った。

「結婚するんだ」

 私は、一瞬何もわからなかった。
 いつかは、と思っていた彼が結婚すると言うのだ。そんな気配はまるで感じなかったから、余計驚いた。
「そっか……。おめでとう、また乾杯だね」
 私は、それから必死に明るく飲んでいた。でもとうとう我慢が出来なくて、駅で泣いた。

「誕生日に言わなくてもいいじゃん……」
「ごめん、ごめんなぁ……、酔わなきゃ言えなかった……」

 10年の月日が流れていた。
 彼は、出逢った当時付き合っていた人と、結婚した。

 でも、私は幸せだと思う。
 はじめての人が、彼で良かった。

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