いつも敵わなかった。
校庭の隅で、憧れの彼と彼女が話しているのを見た時も。
同窓会で、昔の彼と仲良くデュエットをしていた時も。
そして……。
「あら、久しぶりね」
現れた彼女はさらさらと髪をなびかせ、私の元へ歩いてきた。黒いレースの覗くスカートの裾に、家路を急ぐ男たちも歩みを遅くする。偶然の再会に、私達は近くのBARへ行くことにした。
相変わらず綺麗な人。友達、と言うほど親密でもなく、知り合いと言うほど思い出は少なくない。彼女が現れるタイミングは決まって……。
まさか。
私は最近気になる人がいる。あの同窓会で、急に接近した人。たまたまカラオケで隣に座って、お互い目立たない性格だったことや同じアーティストが好きだったことで、何気に電話番号を交換していた。週末になると電話したり、暇な時は映画に行ったり、飲みに行ったりもする。まだお互い心を確認したわけじゃないけれど、いい人だと思ってる。
まさかね。そう思っていた時に、彼女は口を開いた。
「恋……、してる顔ね?」
「そ、そう? 少し酔ったのかしら。赤い?」
彼女の酔った目つきは切れ長ゆえに怖くもあった。睨まれているような瞳。
「3−2の小森君でしょ」
私は、言ってしまったらあの人を取られてしまう予感がした。
「小森君なんて、サツキ知らないでしょ。存在感なかったし」
「こないだの同窓会でアキの隣にいるの見たけど……、良さげな人じゃない」
偶然じゃなかったんだ。私のこと待ってたんだ、この人。周りの視線は綺麗な彼女が酔っ払っていくのに興味深々で、私は恥ずかしくなる。
「アキには、いつまでも『イイ人』でいて欲しいのよぉ。あたしより幸せになるなんてさ。あたしのほうがイイ女なのに」
「サツキはいつだって私より幸せでしょう? そんなに綺麗で、私の憧れる人たちと対等に話して。羨ましいわ」
彼女はジンライムを追加すると、余ってる酒を一気に流し込んだ。
「そうよ。私を羨んでいればいいの。男取られてぐずぐずしてるアキ見てるとスカッとするのよね、あたし。だから、小森君にモーションかけてみるわ」
やっぱり彼女は私が好きだと判っていて、あの人たちに声をかけていたんだ。でも、なんで私となんか張り合うのよ。いくらだっていい男と付き合えるのに。
「アンタが前付き合ってた奴に声かけたらさ。『キミは綺麗過ぎて駄目だよ。アキの方が安心できる』って振られたのよ。その後だってさ、みんな意気地がなくていつもアンタばっかり。悔しいのよ!」
そんなことがあったんだ……。なんか、この綺麗な人が妙に小さく見えた。
「サツキはサツキの彼を見つけてよ。私のお古なんて、似合わないわ」
私はサツキを見下ろしながら、スカッとする気分が判った気がした。
〔了〕