課題〔ところてん〕
職場のお局様に、彼が出来た。
それはそれは夢うつつ、盆と正月、とにかく舞い上がっているのが微笑ましいのを通り越して呆れるほどであった。
「そーですよ、早く片付いてくださいよ、後ろつかえてるんですから」
前はそんなこと言おうものなら、年寄り扱いだとか悪口だとか何倍にもなって返って来たのに、今の彼女には賛辞である。
どちらにせよ、今までチクチクと言われ続けていた私たちにしてみれば悪いことではなかった。
私の押しだけでなく、周りの肩叩きとも思える大声援によって、お局様はめでたく寿退社となった。私と一緒に受け付けを仰せつかった2期後輩の彼女は、なんと受付を間違えて来たとか何とかで、新郎側の友人と運命的な出会いをしたと言う。
「良かったじゃないのー。いっそ一緒になっちゃいなよ」
結婚願望が強かった後輩にとっては渡りに船。それから3ヵ月後、同じ式場でまた私は受付をしていた。
「こういうのって、続くのよね」
隣で受付をしていたのは、同期の友人だった。
「あなたもいい加減したらどう? 長い春なんて言ってないで」
彼女には高校時代からの相手がいる。お互い途中で道草はしたものの、今はすっかり落ち着いて、もう夫婦のようだ。
そして、今。
「新郎、お召し替えでございます。しばらくご歓談ください」
私はマイクを置き、松の席の隅で冷めた伊勢海老のグラタンをつつきながら、カラオケの順番を確認している。
「お疲れさま」
ビールを注ぎに来たのは職場の上司、先月初孫が生まれたそうだ。
「(やれやれ、私には運命的出会いはこないらしい)」
内心私は呟きながら、作り笑顔でグラスを出した。
私はいつも押してばかりいたのだ。あの、先の平たい棒のように。
そろそろ私だって、押される側に回りたい。
つるん、と器に放たれて、キラキラ光るところてんになりたいのだ。
〔了〕