葉書

真白い往復葉書に書かれたそのホテルは
出張先の現場から、車で小1時間の所にあった。

両親も里へ帰り、家ももう無いが
俺にとっての故郷がある街。

あれは、久しぶりに戻った成人式の夜だった。
俺は改めて気づいてしまった。
別れの春から、ずっと君が君臨していたのだと。

思いを告げあったまま別の道を歩いていた。
互いに違う高校に進み、
俺は東京の大学へ入った。
君は地元で就職が決まって、
付き合ってる人もいると友人から聞いた。
大人びた君は、ますます輝いていた。

忘れたつもりだった。
恋もした。したつもりだった。
結局、君の記憶を超える事が出来ずに
別れを繰り返して来たのだと
気付いた頃にはもう
すれ違うまま時が立ち過ぎていた。

東京に戻って。
狭い部屋でたった一人、君の笑顔にもがいた。

どうしようもないんだ。
もう過去の話なんだ。

俺は身勝手な想いと惜別する為に
遠い地から手紙を出した。
「俺は一生あなたの代わりを探し続けるのでしょう」
それは、俺が今までで1番愛した人だと
自分に刻み付けただけだった。
君からの返事は無かった。

その葉書は、俺に20年の時を超えて
君と言う存在を揺り起こした。
もし、君と逢ったら……。

「2泊3日だったわね」
はしゃぐ子供の声の向こうから
妻の声が遠くで聞こえた。
あの時、同窓会の話をしなかったのは
何故だったんだろう。

フロントで鍵を受け取り、
クロークで荷物を預けていた。
「よぉ、随分おやじになったなぁ」
その声に振り向くと
よっぽど面影を無くしつつある旧友が
4.5人たむろしていた。
「お前の方がかなり、キてんじゃねえ?」
「20年も経ちゃしゃーないよなぁ」
促されるままバンケットホールに入ると。

君は来ていた。

ゆっくりと、君の方へ歩きだす。
色褪せぬまま輝く瞳が、俺を見ていた。

〔了〕

……あとがき……
この作品は全て、とある読者様のリクエストの賜物です。
ですので、これが一位だった、というのは、もはや私のものではなく
この題を与えてくださった、読者様のものだと思います。
主人公の設定と「今、あの人に逢ったら」と言う気持ち。
終幕はお任せします、というリクエストでした。
かなり主人公を苦悩させてしまいましたが(笑)
結果的に、このように評価してもらって、私としても、書き応えのあった作品でした。

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